セミナー情報

2024.05.25

「神仙郷の苔庭を探る」— 秋山弘之先生と共に学ぶガーデンセミナー

神仙郷の登録有形文化財である「日光殿」で令和6年5月25日、苔専門家の秋山弘之先生をお招きして第1回ガーデンセミナーを開催しました。県内外の愛好家ら約50人が聴講しました。
秋山先生は、元兵庫県立「人と自然の博物館」の研究員を務められ、京都・西芳寺や箱根神仙郷の苔庭などの調査を担ってきた苔の専門家で、名勝・神仙郷保存活用委員も務めていただいています。2021年には神仙郷を調査していただき、苔庭に125種(蘚類92種、苔類33種)の苔類が生育していることを明らかにしていただきました。

「苔の魅力とその多様性」— 神仙郷に広がるコケ植物の世界

この日、「神仙郷を彩るさまざまなコケたち」と題して講演された秋山先生は、スギゴケなどの蘚類、ゼニゴケなどの苔類、ツノゴケ類があるコケ植物、それぞれ代表的なコケの特徴を紹介していただきました。その中で、コケ植物は乾燥する日中は休眠し、早朝に降りる朝露を体表面全体から素早く吸水できるがゆえに、乾燥し易い岩の上や木の幹など、他の植物が生きられない厳しい環境でも生きられるそうで、「逆境に逆らうのではなく耐え忍ぶ苔らしい生き方だ」と話されました。
コケ植物の役割については、森の中では、雨粒の威力を吸収して土壌の流出を抑え、水の浸透速度を適度にするほか、抗菌性があるがゆえに他の植物を土中の菌類から守り、その発芽と定着を助ける働きがあるといいます。都市部の気温が上昇するヒートアイランドを抑える屋上緑化にはエゾスナゴケが利用されていることを伝え、一般植物の利用は土を必要とするために重量を支える構造材の変更、防水シートの仕様などコストがかかるものの、コケは軽く、メンテナンスの必要がないなど、コケの有用性を強調されました。
ウマスギゴケ、ホソバオキナゴケ、ヒノキゴケなど、京都・竜安寺方丈庭園や西芳寺、法然院、三千院、そして神仙郷などの苔庭に多く見られるコケや、鹿児島の屋久島、青森の奥入瀬渓流、長野の北八ヶ岳というコケの日本三大聖地も紹介いただきました。「美は細部に宿る」と話され、コケの美しさを10倍程度の拡大率があるルーペで観察してほしいと語り掛けました。

「神仙郷で苔の美しさを再発見」— 参加者の声から届くその魅力

講演後は参加者と共に神仙郷苔庭で観察会を行い、参加者はウマスギゴケ、オオスギゴケなどをルーペで観察しました。また、岩の上で休眠しているコケが吸水してみるみる緑を増していく実験も行い、参加者の好評を博していました。
箱根美術館のウェブサイトやチラシなどを見て訪れたという人が多く、中には初めて訪れたという人もいらっしゃいました。「分かりやすくて楽しかった」「コケの生命力の強さに驚きました」「通常公開されていないお庭も見せていただき、その素晴らしさに感動しました」「苔の知られざる世界に驚かされ、美しさを発見することができ、苔を見る目が変わりました。神仙郷の素晴らしさにあらためて感動しました」との声が聞かれるなど、それぞれに神仙郷の美を楽しんでいました。